司馬遼太郎没後20周年 『坂の上の雲』レビュー

 『竜馬がゆく』や『翔ぶが如く』など、日本でも最も有名な時代小説家の一人である司馬遼太郎さんが亡くなって今日2月12日でちょうど20年になります。
 読んだ人なら分かると思うのですが、司馬遼太郎は小説というのには厳密にはちょっと違うような不思議な書き方で書かれています。神保町の古本屋は次に司馬遼太郎が何を書くか分かると言われるくらい資料を買い集め、徹底的に事実関係を調べていきます。さらに「余談ではあるが。。。」と本編に直接関係ないことまで調べたことをどんどん書いていく。これは小説なのか?と不思議な感じになるのですが、読み慣れてくると、この司馬遼太郎的な文章が楽しくなってしまいます。

 そんな司馬遼太郎さんの代表作が『坂の上の雲』です。
 司馬さんが小説家になろうとした動機は自分が一兵士として体験した太平洋戦争です。どうしたこんなことに日本はこんなことになってしまったんだろう。それを解き明かす為に作家になった司馬さんですが、太平洋戦争を舞台とした小説は書きませんでした。司馬さんの大作で最も太平洋戦争に近い年代を舞台にしたのが、日露戦争を描いた『坂の上の雲』です。
 主人公は二人の軍人、秋山好古と秋山真之の兄弟。そして同郷の歌人、正岡子規の三人です。
 NHKの年末大河でドラマ化もしていましたね。 

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以下、小説のレビュー。

 「人は一生で一事を成せばいい」という好古の言葉のように、情熱的に一事に臨む主人公達。三人だけではない。できたばかりの国の気風なのか、明治の人達の情熱が溢れている。
 司馬と言えばこれという余談のオンパレード。ロシアを説明するのに雷帝ピョードルについて書くあたりはさすが。
 全編を通して読むと敵方のクロパトキンとかロジェンスキーとかもいい味を出していて面白い。日本人もロシア人も有名人から記録を残していた一般人まで途方もない数の登場人物が出てきて、それが物語の血肉になっている。
 
 主人公を秋山兄弟だけにせず子規を加えたのがよかったと思う。世界中を飛び回りたいのにそれができず、人の何倍もやりたいことがあるのに早死にしなければいけない子規。彼と日本史をひっくり返す中心となった真之の交流から、この時代がただ行け行けドンドンではなく、覚悟と能天気を持った良き時代だったように感じた。
 バルチック艦隊との運命の決戦の緊張感。そして「雨の坂」。このエンディングがたまらなく好きだ。

 この作品のテーマは愛国心では断じてないと思う。生きるということそのものがこの作品のテーマなのだと思う。
 大きく広くズシリと深い名作。ドラマで興味を持った人はぜひ。

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