読み切り連載小説『OP教の教え』 「大切なものについて」

  教祖と私は長いつきあいだ。もともとは地元のお寺の住職さんだった。勉強熱心で皆から好かれていた。
  今思えばその真面目さがいけなかった。彼はある日突然こう宣言した。
「あらゆる教典を学び、心理学や哲学など様々な学問を修め、いろいろな人に会い、思案に思案に重ね、私は悟った。人生で最も大切なものはOPである
  (こんな軽薄な言葉は書きたくない。 以下、全てOPとふせさせていただく。)
  そして彼は寺を宗教法人として独立させ、OP教と名乗った。十年の年月が経ち、気がつけば地元の人だけでなく、信者1万人を越えるそれなりの新興宗教になってしまった。いい人だしちょっと手伝うかと思っていた私も、今では幹部の一人だ。
 みんなあの教祖の言葉をありがたがって聞いている。でもこれでいいのか。OP教で本当にいいのか。最も大切なものがOPで本当にいいのか。今では彼に意見できるのは最初からのつきあいの私くらいだ。
 今日こそ教祖を、いや、彼を諭さなければならない。

 

  教祖は朝は早起きだが、その分ゆっくりと身支度をする。この時がチャンスだ。
 「教祖、今日こそは言わせていただきます。人生で一番大切なものがOPってさすがにそれはないんじゃないでしょうか。」
 あまりに直球だが、もうこんなことを言えるのも私くらいなのだ。教祖は私の決意を察しているのかいないのか、いつもの説法のようにあっさりとした口ぶりで応える。
 「今さらそんなこと言われてもねぇ。じゃあ、他にもっと大切なものがなにかありますか?」
 いつもののらりくらりだ。そんなことで怯む私ではない。
 「俗っぽく言いますが、例えば、お金なんてどうでしょう? 案外そっちの方が真理かもしれません」
 「お金は何かと交換するから意味があるものでしょう。本当にお金が大切なら、誰もお金と何かを交換しないんじゃないですか。OPを何かと交換する人はいないでしょう」
 教祖の淀みない答え。最後に変なことをつけくわえてるが、一理ある。だが、これは序の口だ。
 「では、愛はどうでしょうか?」
 「愛ねぇ。こないだ見たスター・ウォーズの騎士たちは、愛は恐れへの不安を生むと否定していたねぇ。なるほど一理あるなぁと思って見てたよ」
 教祖、そんなもの俗っぽいもの見てたのかという言葉は心の中に留めておく。
 「それは本当の愛でなかったということではないでしょうか?」
 「本当の愛、嘘の愛があるということかい?」
 「はい。OPだって本物と偽物があるじゃないですか。そうか、真贋を見抜く目こそ一番大事ではないでしょうか?」
  髭に手をやり、しばし考える教祖。そうなのだ。OPより大事なものが浮かばないはずないのだ。
 「確かに真贋を見抜く目があればどんなにいいことたろう。しかしそれは誰が持ってるのかね? 少なくとも私は持っていない。どんな高僧でも絶対間違えない者などいないのではないのかい?」
  言葉が出ない。
 「むしろ自分が絶対間違えないという過信は害にならないだろうか。それなら心にOPを描いてそれが大事と思う方がよほど賢明じゃないだろうか」
 「しかし教祖、それならばOPが最も大事というのも絶対正しい真理とは言えないかもしれないじゃないですか」
  思わず語気が強くなる。しかし、教祖はどこまでも涼しい顔だ。この会話を楽しんでるようにも見える。
 「そう、OPが一番大事だと言いつつ、私も本当にそうなのかいまだに迷っている。だからこうして議論できてよかったよ。そろそろ時間か。みなと朝食をとろうか」
 教祖は私の返事を聞くより早く先に行ってしまった。後に残されるのは何も言い返せない私のみ。

 こんなことではくじけない。私がなんとかしなければ。。。
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