学歴詐称について  読み切り連載小説『OP教の教え』

教祖と私は長いつきあいだ。もともとは地元のお寺の住職さんだった。勉強熱心で皆から好かれていた。

今思えばその真面目さがいけなかった。彼はある日突然こう宣言した。

「あらゆる教典を学び、心理学や哲学など、様々な学問を修め、いろいろな人に会い、思案に思案に重ね、私は悟った。人生で最も大切なものはOPである」

(こんな軽薄な言葉は書きたくない。 以下、全てOPとふせさせていただく。)

そして彼は宗教法人として独立し、OP教と名乗った。

気がつけば地元の人だけでなく、信者1万人を越えるそれなりの新興宗教になってしまった。いい人だしちょっと手伝うかと思っていた私も、気がつけば幹部だ。

みんなあの教祖の言葉をありがたがって聞いている。でもこれでいいのか。彼に意見できるのは最初からのつきあいの私くらいだ。今日こそ教祖を、いや彼を諭さなければならない。

 

今朝はかっこうのネタがある。というか、私が興味津々なのだ。

「教祖、懺悔に来た例のコメンテーターの人はどうでしたか?」

「ああ、昨日の彼ね。有名な人だったのかな? うちはキリスト教系じゃないから懺悔なんてないって何度も言ったんだけどねぇ。熱心に謝っていたよ。」

「へー、意外に真面目ないい人なんですねぇ。そんな人でも一気に全てを失ってしまうんだから、学歴って大事なんですねぇ。私も勉強が大事って子どもの頃から聞かされてきましたもんねぇ。」

そうだ、きっとOPなんかより大事なものがある。

「学歴や学問か。確かにそれは大事だね。ただ、僕は決して学がある人間じゃない。それなのにまがりなりにも教祖をやらせてもらっている。だから学が一番大事だとも限らない」

こうは言っているが、教祖はそうとう学のある人物だ。こういうところが人を惹きつけている。私もそうだ。

「私は今はそんなに学はありませんと開き直るってる。おそらく彼の方がずっと勉強していただろう。でも彼はしてきたこと以上の学があると言ってしまったんだ。僕と彼の違いはそれだけだよ」

教祖は目を細めて遠くを見ている。世間で叩かれている人間に対する眼差しにしては優しい。

「なるほど。そうすると学以上に自分を大きく見せない、信頼というのが一番大事なのかもしれないですね」

自分でもハッとなる。思わず出た言葉だ。これで教祖を諫められるかもしれない。

「確かに信頼は大事だねぇ。でもみんなは私の何を信頼してるのだろう? 学がないことに嘘がないからと言って、その人を信頼して敬意をいだくわけじゃないでしょう」

何やら教祖のペースになってきそうだ。ここでがんばらないといけない。

「それが人柄なんじゃないでしょうか?」

それまで遠くを見ていた教祖が力をこめてこちらに目を向ける。

「でもそれを言ったら彼はとても人柄がよかったよ。もちろん嘘が分かってしまってそんなものは消し飛んでしまったが」

「それは。。。ダメだ。私には分かりません」

教祖は目をつぶりじっと考えている。いや、これは考えるフリだ。きっと答えは決まってる。

「私に充分な信頼や敬意の理由がないとすると、やっぱり私が唱えるOPが偉大なんじゃないだろうか」

ここで引き下がる私ではない。

「でも教祖、OPこそまさによく詐称されないでしょうか?」

「それだけ大事なものなんじゃないかな。だから嘘をつく」

このツッコミは想定していたのだろうか。即答だった。しかし、ここで教祖はじっと考え出した。今度は本当だ。

「嘘をつかないことは信頼を得る為に必要なことだ。でも、私たちは全く嘘をつかずには生きられない。時に大きな嘘をつかなきゃいけない時だってある」

考えながら言葉を絞り出している。

「学も大事、信頼も大事。でも、もっと大事な何かがあるんじゃないかな。私はそれはOPではないかと思う。少なくとも私は彼を糾弾する気にはなれないよ。彼がこのOP教で何を学ぶのか見守ろうじゃないか」

満足げに先に歩いていってしまった。途中までいいことも言ってたのになんでそういう結論になってしまうのだ? 確かに彼の今後を見守っていきたいと思うが。

 

ダメだ。こんなことではくじけない。私が何とかしなければ。

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