不倫について 読み切り連載小説『OP教の教え』

教祖と私は長いつきあいだ。もともとは地元のお寺の住職さんだった。勉強熱心で皆から好かれていた。

今思えばその真面目さがいけなかった。彼はある日突然こう宣言した。

「あらゆる教典を学び、心理学や哲学など、様々な学問を修め、いろいろな人に会い、思案に思案に重ね、私は悟った。人生で最も大切なものはOPである」

(こんな軽薄な言葉は書きたくない。 以下、全てOPとふせさせていただく。)

そして彼は宗教法人として独立し、OP教と名乗った。

気がつけば地元の人だけでなく、信者1万人を越えるそれなりの新興宗教になってしまった。いい人だしちょっと手伝うかと思っていた私も、気がつけば幹部だ。

みんなあの教祖の言葉をありがたがって聞いている。でもこれでいいのか。彼に意見できるのは最初からのつきあいの私くらいだ。今日こそ教祖を、いや彼を諭さなければならない。

 

今日は旬のネタで、いや、ちょっと旬は過ぎてしまったかもしれないけど、これなら教祖を凹ませられそうな気がする。

「教祖、おはようございます。新聞はもうご覧になられましたか?」

「ああ、おはよう。いや、まだ起きたばかりなので」

「それはよかった。ちょうど東スポを持ってきました」

しかし、新興宗教とはいえ、教祖がスポーツ新聞好きなんていいんだろうか?

「また今日も不倫スキャンダルがあるみたいだねぇ。ほんとゲスの極みだ」

変に芸能ネタに詳しいんだからどっちがゲスなんだか。しかし、これはチャンスだ。

「教祖、OPは不倫を助長しませんか?」

そうだ、これこそズバリなのだ。OPが一番大事なんてそもそもアウトだ。

ただ、教祖の顔には微塵のあせりも見られない。

「君は道に咲く花がきれいで見とれてしまって遅刻したとして、きれいな花のせいで遅刻しましたと言うのかね?」

まさか、こんなかえしが来ようとは。平然と外の桜を眺めながら話す教祖の横顔は勝ち誇ってるかのようだ。教祖はこんなことを言われることを予測していたのだ。

「何かのせいで不倫をさせられるわけじゃない。不倫はその人の心がするものだ」

思いがけず真理を聞いた気がした。だからこの人は油断ならない。

「しかし不思議なものだね。どうして不倫をしてはいけないのだろう?」

一転、教祖は険しい顔を見せる。

「それはやはり夫婦の信頼を裏切るからではないでしょうか?」

「夫婦の間で嘘があったから悪いというわけだね。では、パートナーがいいと言えば不倫は問題ないってことかな?」

そんなこと考えたことがなかった。

「そ、それは。うーん、でも何かいけない気がします」

「二人の間でよければそれでいいというわけではないってことだね。つまり二人の間の信頼とは別に社会に対しての信頼もあるっていうことかな」

「二人の間の信頼に比べれば小さいでしょうけど、やはりあるような気がします」

「世間に対して申し訳が立たないというわけか。そういえば昔は日本でも姦通罪というものがあった。君もそれくらいを望むのかね?」

「とんでもない。もうそんな時代じゃありませんよ」

この人はその時代から生きてきた。昔の話をする時の教祖はそんな風格を漂わせる時がある。

「おそらく時代や社会によって許せなさの度合いが違うんだろうねぇ。ひょっとしたら不倫なんて全然OKという社会もあるかもしれない」

「そうなんですかねぇ」

「私たちの社会はどれくらいの許せなさを持つのが適当なのかねぇ」

確かに私は、いや世間は無自覚に不倫した人を責めすぎていたのかもしれない。

「倫理は確かに必要だけど、あれは絶対許せない、これを絶対許さないと目を吊り上げて生きてると疲れるよ。だったら、心にOPを描いてこれが一番大事と思ってるだけの人生の方がいいね」

そこまで言うと、教祖はさっさと行ってしまった。いや、それはでも何か違う気がする。

 

ダメだ。こんなことではくじけない。私が何とかしなければ。。。

 

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